毎日新聞で 陛下のご譲位を受けて、法務省が恩赦を検討しているという報道がありました。
ただ恩赦と言っても最近は行われていませんでしたし、一体何のことという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は恩赦の制度とは、恩赦をやる意義・必要性、過去の例などについてわかりやすく見ていきたいと思います。
恩赦とは
恩赦とは、裁判で決まった刑罰に関して行政権が軽減・消滅させる制度のことを言います。
恩赦には、大きく分けて
- 個別恩赦
- 政令恩赦
があります。
個別恩赦は個別の案件によって、更生の度合いなどで審査されて行われる恩赦で、二種類あり、常時恩赦と特別基準恩赦があります。
常時恩赦はその名の通り常時行われているもので、特別基準恩赦は基本的には政令恩赦の基準から漏れたものに対して個別に恩赦するものです。
政令恩赦は、個別の案件に関係なく、特定の罪状を定めて、その罪状に該当するもの全てに行われる恩赦のことです。こちらに関しては国家の慶事などがあった際に行われるものです。
常時恩赦に関しては申請に基づいて毎年審査によって行われていますが、特別基準恩赦・政令恩赦に関しては国の慶弔時に行われるものですが、長らく行われていません。
特別基準恩赦は1993年の皇太子殿下ご結婚以来、政令恩赦は1989年の昭和天皇の大喪の礼以来行われていません。
その慶弔時に行われる特別基準恩赦や政令恩赦を、今上陛下のご譲位のタイミングで行うことを法務省が行う検討を行っているというのが今回の報道です。
日本国憲法で定められている恩赦
恩赦は意外と知られていませんが日本国憲法に明記されています。
日本国憲法73条に置いて内閣の事務として
「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。」
が定められており、
日本国憲法7条に置いて天皇の国事行為として
「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。」
と定められています。
すなわち、日本国憲法上で、内閣が決定して天皇の認証によって恩赦は行われるということが定められています。
恩赦の問題点
恩赦の問題点と指摘される主なものとしては、三権分立が原則の我が国において司法の決めた量刑に関して行政府が減免するということは正しいのかということです。
厳密には司法の判断過程に行政が干渉しているものではなく、司法権に対する干渉と言えるかは微妙なところですが、とはいえ司法の決定の分野に入るわけですから、あくまで例外として慎重な運用が求められます。
とはいえ、憲法・法律で定められていることでありますから、慎重な運用は求められますが、恩赦それ自体に問題があるとはいえないわけです。
そして、政治的運用が図られやすいという点も問題点として挙げられます。
公職選挙法違反などでの公民権停止からの復権など、政治家に有利な恩赦が行われがちで過去の恩赦対象者の比率も公職選挙法を対象としてものが非常に多いです。
このような過去もあり、1993年には政令恩赦は行われませんでした。
いずれにせよ恣意性を排除した慎重な運用が求められます。
恩赦の意義・必要性
そして、恩赦を例外として設けることは、以下の必要性の観点からも求められます。
冤罪の救済
厳格な再審では救済出来ない案件に関して、その判決による刑罰からの解放という意味での必要性です。
法律変更などによる量刑不均衡の是正
次は、社会状況の変化、法改正などによって過去に裁かれたものといま現在とで量刑の不均衡が起こってしまったことに対する救済の目的のための必要性です。
例えば、尊属殺(親を殺すこと)に対して不当に重い罪を科しているとして違憲判決が下された時に、尊属殺で服役中のものに対して恩赦によって刑の減免などが行われました。
過去で言えば、生類憐れみの令や、治安維持法など前の体制の悪法によって刑罰を受けているものの救済という役割も果たします。
更生の促進
次には、改善更生の状況で恩赦するということによって、改善更生を促進することができるという必要性です。
改善更生を着々と行っていれば恩赦が行われるかもしれないという期待感によって、受刑者の改善更生の励みになり、再犯防止の効果も期待でき、安全な社会を維持するための重要な役割を果たしていると言えるわけです。*1
日本と各国の恩赦
ということで恩赦についてみてきました。
このように恩赦という制度は憲法でも定められていますし、その必要性からも確保する必要があるでしょう。
ただし慶弔時の恩赦に少なからず抵抗感があるというは確かかもしれません。
しかし、これは王権を抱く国家であれば伝統として根強いという意味も少なからずあります。
日本でも600年代から行われているものです。
そして1993年以来20年以上行われていないということで、陛下即位の際に行われるということが検討されるということは自然とも思えます。
あくまで軽微な犯罪のみ
皆様が心配されているのは、国の祝い事で死刑囚や凶悪犯罪者の刑が減免されるというのは遺族感情を考えても受け入れられないということでしょう。
しかしながら、過去にはたしかに死刑囚の減免もありましたが、近年の日本では行われていないこと、そしてそれに対する国民感情の反発が当然予想されることなどからそういった凶悪犯罪、人に対して害を与えた罪に対しての恩赦というのは非常に考えにくいものです。
あくまで、比較的軽微で、被害者の存在しない罪に対するものに限られることでしょう。
抑制的な日本の恩赦
たとえばお隣の国韓国では恩赦パレードで、恩赦が90回以上にわたって行われており、死刑判決を受けた元大統領が釈放されてパーティーに参列など日本では考えられないことになっています。(あくまで周辺諸国の事情を説明する目的であり、嫌韓的発言ではありません。 )
そして、同盟国アメリカでもオバマ大統領が退任直前に駆け込みで恩赦を連発したことも話題になりました。
民主主義国家では慶時の恩赦というのも通常行われていることです。
そして日本は通常の恩赦も含めて、他国と比較すれば非常に抑制的なものです。
だからいいと言っているわけではありませんが、あくまで軽犯罪に対するものと予想されますし、陛下の即位に関するもの、伝統的なものとして、そして20年以上ぶりの恩赦としての理解は当然あり得るだろうと思います。
終わりに
ということで、恩赦の制度、必要性・意義などについて見てきました。
極力事実のみを羅列したつもりですので、これを読んでご自身の判断の一助にしていただければと思います。
今回の報道に関しては様々な観点からの意見が予想されますが、その参考になれば幸いです。