8月6日。8月9日。
72年前、広島・長崎に核爆弾が落とされた日です。
9日長崎では、安倍総理も参加した慰霊が行われました。
広島、長崎の核爆弾の惨禍を二度と繰り返してはならない。
毎年8月を迎えるたびに黙祷しながら強く思います。
そんななか、9日長崎市長が安倍総理に対して核兵器禁止条約を批准するべく要求したことが話題となりました。
日本人は、須く二度と核の惨禍を繰り返してはならない、核爆弾を世界から無くしたいという思いで一致していると思います。
それなのに日本政府はなぜ参加しないのだと疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、日本がなぜ核禁止条約に参加しないか、核のない世界実現のためにすべきことなどについてわかりやすく見ていきたいと思います。
核をめぐる条約
生物兵器・化学兵器などをはじめとした非人道兵器には使用を禁じる条約がすでに存在していますが、核兵器に関しては存在しない状況となっています。
NPT体制
そんななか、1970年に発行したのが、核拡散防止条約いわゆるNPT*1です。
この条約は日本も含めて、現在190カ国が締結しています。
この条約はすでに核兵器を所持していたいわゆる五大国(米・英・仏・露・中)を核兵器国としてその所持を認めて、その上で核兵器の拡散をそれ以上広げず、なおかつ核兵器の削減を行っていこうというものです。
核禁止条約
そして今回問題になっている今年の7月7日に採択されたのが、核兵器禁止条約*2です。
これは一切の核兵器の使用、保有などを禁じるもので、NPTの何段階も先を行くものです。
この条約には122カ国が参加しましたが、核兵器国はもちろん、日本・ドイツ・オーストラリアなどの不拡散に取り組んできた中道国も参加しませんでした。
その理念は素晴らしいのですが、核兵器国はもちろん、非核兵器国も多数参加しないということでその実効性が疑問視されているのも確かです。
日本が核兵器禁止条約に参加しない理由
ということで、日本が核の使用保有を禁じる理想的世界を目指す、核兵器禁止条約に参加しない理由について見ていこうと思います。*3
核の傘
この核の傘という単語は聞いたことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは、核保有国がその核の抑止力を非核保有国にも及ぼすという状態のことを言います。
わかりやすく言えば、そちらが攻撃してきたら、核による反撃があるぞという抑止力を、アメリカを攻撃するだけでなく、日本を攻撃することでもやるぞという姿勢を見せることで、日本に対する攻撃を抑止する力も及ぼしているということです。
現在日本は、アメリカの核の傘の下で安全保障政策を行っており、日本が平和で過ごせていることも、核の傘によるアメリカの抑止力あってこそであることは間違いありませんし、多くの人がその認識を共有されていることかと思います。
そのことから、核兵器禁止条約に参加してしまえば、その安全保障政策と矛盾した主張になりかねないために参加を見送ったというのが大きな理由の一つでしょう。
ドイツや、オーストラリアやNATO諸国が核禁止条約の参加を見送ったのも、日本と同じく核の傘の下での安全保障体制を築き上げていることがあります。
現実的ではない
次には、核兵器禁止条約には実効性が皆無だというポイントです。
今回の参加国には、非核兵器国も多くの国が参加を見送ったことでその影響力に疑問を投げかける声もあります。
なにより、核兵器国の参加がなければ核兵器禁止条約は実効性を持たないのが現実です。
そして、今現在、包括的核実験禁止条約(CTBT)や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)といった、核禁止条約よりも前の段階に存在する条約ですら核兵器国が参加していない状況で、核禁止条約に今の段階で参加することの意義というものも十分に考えるべきでしょう。
溝を深めかねない
そして、現在核兵器国と非核兵器国だけの分断ではなく、非核兵器国の中にもNPT派と今回の核禁止条約派という分断が生まれました。
つまりこれらの3つのグループの対立という構造になっています。
しかしながら、現実的には全てのグループが一斉に核兵器禁止に動かなければ、悲しいことですが何の意味もありません。
そういう意味でも、今日本が核禁止条約に参加するということは、核兵器国に対する対立をあおることになりかねず、唯一の戦争被爆国として核兵器国と非核兵器国の橋渡し役になるべき日本が、対立をうむ行動を行うメリットは考えにくいでしょう。
ましてや、核兵器禁止条約が現実的なものではない状況ですから、現実としては一歩も進めずに、核兵器国と非核兵器国の間の対立を生んだ結果、むしろ後退してしまう、逆効果となってしまう可能性すらあるわけです。
そうではなく、現実的に上記のCTBTやFMCTを実効性あるものにしていくべく、核兵器国に働きかけて、核兵器を極限まで減らす努力がまずもって必要であります。
今のこの状況で上述の通り現実的ではない核兵器禁止条約に参加するのはいらぬ対立をうむというのが日本の考えです。
禁止は厳しいが着実に一歩ずつ
ということで、上記の理由から日本は核兵器禁止条約への参加を見送りました。
安全保障面での核の傘との整合性、その実効性の疑問、かえって溝を深める結果になるという理由からです。
上述のようにCTBTなどを通じてまずは核軍縮に向けて着実に動く努力を進めていくことが、将来の核のない世界への近道となる*4と考えているわけです。
なにも日本政府が核兵器のない世界を目指していないという理由で参加しなかったというわけではないことは理解すべきです。
核兵器禁止の難しさ
そして、核禁止というのは現実的には非常に難しいことです。
世界中でいっせーので核兵器を廃棄することができれば可能でしょう。
しかしながら、他の国が廃棄して一つの国だけが廃棄せずに保有していれば、世界の軍事的バランスは崩れます。
その結果、核を保有しているその一国が世界を牛耳ることとなります。
これは世界からなぜ軍隊がなくならないかという話とも通じるものでしょう。
例えば日本が軍隊(自衛隊)を放棄しても、周辺諸国が放棄しなければ、軍事的バランスが崩れ、攻め込まれても防衛することができなくなり、自国の破滅を招くことになりますから、自国の戦力を放棄することはできません。
囚人のジレンマにも似たような感覚を覚えます。
ただそれが現実で、今現在存在する力を放棄するときには一斉でなければならないわけですが、現実問題として一斉に力を放棄することは、リスクが伴うためできないということです。
だからこそ、上述のように少しずつでも一歩ずつ、軍事的バランスが崩れないようにちょっとずつ核兵器国全体で軍縮を進めていって、それが限りなく小さな段階になって初めて核兵器禁止条約が現実化してくるでしょう。
終わりに
ということで、日本が核禁止条約に参加しない理由、核兵器が世界からなくすことの困難さを見てきました。
日本政府が核をなくすという理念に不賛同というわけではなく、安全保障上今現状難しいというのも当然ありますが、将来の核のない世界を見据えた上でも、現在核禁止条約に入ることが本当に意義あることなのかを考えた結果であることも把握すべきでしょう。
日本政府は23年連続核廃絶決議案を提出し続け、NPT体制の強化など核のない世界に向けての行動は行っています。*5
核の傘の恩恵を受けているからというだけではないということです。
まずはCTBT、FMCTを着実に前に進めて、NPT体制を本当の意味で確立して、その結果核軍縮が進み、将来的に核禁止条約に参加できるようになるための努力を、被爆者の思いに応えるためにも、日本政府は行い続けなければなりません。
核の惨禍が二度と繰り返されることのない世界を、核兵器のない世界が一刻も早く成立することを、心から願っています。