8月13日、加筆修正
私は原発推進派でも原発即時停止派でもありません。
今回は、あくまで安全保障上の問題から原発の再稼働反対について論じました。
しかしながら、原発を反対する人々の活動をどうこう言おうとするつもりはありません。
原発を攻撃されて危険だから原発反対などという、安全保障を理由付けに使う欺瞞的な反対運動ではなく、環境問題・健康被害をはじめとして、真っ当な論理的反対運動を行われるのであれば大いに結構であると思います。
その点を留意した上でこちらの記事をご覧いただけると幸いです。
- 国防について語るのであれば原発を止めてから!?
- マクロ的視点とミクロ的視点の混同
- 被害を考える上で稼働しているしていないかは大きな問題ではない
- 原発は攻撃対象となりうるか
- 原発がもたらす安全保障上のメリット
- まとめ
国防について語るのであれば原発を止めてから!?
そんなにミサイルミサイル言うなら原発止めてからにしようよ https://t.co/KuQk6hk25Q
— スノット (@snothim) 2017年5月21日
昨日ツイッターでこのようなリプライをいただきました。
原発を再稼働するなら、安全保障を語るな!原発を再稼働しているのは安全保障上、逆行しているのではないかという主張です。
脱原発のかたの論点としてよくあげられる点と承知しています。
確かに、原発は攻撃対象として危険であって、攻撃されれば核爆弾を落とされるのと大差ないのではという議論はわからないではありません。しかしながら、あまりにミクロ的な小さな視点で、脱原発ありきの議論であると断ぜざるをえません。
マクロ的視点とミクロ的視点の混同
今現在の最大の脅威といえば、北朝鮮のミサイルでしょう。
北朝鮮のミサイルによって、原発を狙われたら日本は非常に危険なのに、原発を稼働し続けている状況で、国防について語るのはどうなんだという主張です。
しかしながら、安全保障というのはまずはマクロ的な大きな視点で見なければなりません。
まずはマクロ的視点で安全保障を論じて、その後に個別のミクロ的視点が生じてくるものです。
マクロ的な視点で言えば、北朝鮮に圧力、対話を通じてミサイルをそもそも我が国領土に発射させないということ、また発射された場合でも迎撃システムなどでミサイルによる我が国への被害を最小限に抑えることでしょう。
このようなマクロの議論と、原発へミサイルを打たれると危ないから再稼働するべきでない、というミクロ的議論はまず戦うステージが違います。
原発の再稼働の有無を持って、マクロ的な安全保障を語らせないというのは暴論です。
原発を稼働しているから国防について語るべきでないという論は、ミクロな議論とマクロな議論がごっちゃになっており、論理的整合性を持つものではありません。
そして上記の通り、まずは安全保障面でそもそもミサイル問題にどう対処するかというマクロ的視点が解決したのちに、ミサイルをどこに撃たれれば危険かどうかというミクロ的視点に移るわけです。
被害を考える上で稼働しているしていないかは大きな問題ではない
ということで、次はミクロ的視点として、北朝鮮がミサイルを原発に攻撃してくる危険性について論じたいと思います。
これに関して私はあくまで順番が違っているということを指摘したまでで、語るべきでないと言っているわけではなく、当然危険性があることとの一つとして論じる必要があると思います。
まず原発を稼働しているかしていないかで攻撃された場合の危険性の差があるかということであります。
原発を攻撃する場合、原子炉が当然攻撃の対象として考えられると思います。
原子炉を破壊すれば、放射能が漏れ出し、擬似的な核攻撃のような影響を及される危険性があるということでしょう。
そして、原子炉を攻撃する際に、原発が稼働しているかしていないかは関係なく、そこに存在する原子炉を破壊できれば、放射能が漏れ出し被害を被るでしょう。
このように安全保障上、稼働しているか稼働してないかが問題ではなく、問題があるとすれば原発そのものなのです。
しかしながら、原発の存在を明日からなくす(稼働という問題ではなく)のは、放射性廃棄物などの問題からも不可能です。
こう述べれば、再稼働反対というのと、原発を攻撃されるという論点は、全くずれているということがわかると思います。
原発は攻撃対象となりうるか
ただ原子炉を破壊されれば危険なのだから、実際に北朝鮮によるミサイル攻撃の対象となってしまう可能性もあると感じられるかもしれません。
しかし、PAC3をはじめとするミサイル迎撃システムで迎撃できない高速な弾道ミサイルの精度は、数百メートル範囲の精度であって、数メートルの原子炉を正確に攻撃するのは難しいわけです。
日本攻撃用のミサイル:ノドンの精度は500メートルの範囲と言われています。
日本を攻撃する際に原子炉を正確に攻撃するのは非常に難しいことです。
つまり、ミサイル迎撃の網をくぐり抜けながら、原子炉をピンポイントで爆破し、日本にダメージを与えるというのは、非常に難しいことなのです。
不可能に近いと言っても過言ではありません。
それならば、そもそも核弾頭を発射すればいいわけです。
そして、通常ミサイルを発射するにしても、原発を狙って原子炉を破壊できるかわからないミサイルを発射するよりも、単純に首都圏に弾道ミサイルを発射すれば、精度とは無関係に、原子炉を攻撃するよりもはるかに大きな打撃を日本に与えることができます。
このことについては、以下のサイトで漫画も用いてわかりやすく、説明されています。
国会でも取り上げられています
つまり北朝鮮からしてみれば、原発を積極的に狙うということが、日本に打撃を与えるプランとして効率的ではありません。
それよりも、首都圏や在日米軍への攻撃が日本に対する影響を考えたときにも上に位置するでしょう。
地上的作戦として、原発を制圧して暴走させるというのは、確かに危険で警備をより高める必要があるのは事実です。
現にアメリカでは軍が守っていますが、日本では警察官です。
ただ安全保障の話とは、少しずれるのでまたの機会に書きたいと思います。
以上からわかる通り、原発が他の地域と比べて特段攻撃された場合の危険性が高いということは、考えにくいのです。
この論点において重要なのは、原発を攻撃されるということよりも、そもそもミサイルを防ぐということ、つまりマクロ的視点だということが、わかると思います。
原発がもたらす安全保障上のメリット
次に、原発を再稼働しないことによる国防への影響についてです。原発を再稼働した場合と、しない場合で国防にどういう影響を及ぼすかです。
エネルギーリスクの分散
まず考えられるのはエネルギーに関してです。
太平洋戦争が、ABCD包囲網をはじめとする経済制裁によって、石油を手に入れられなくなり止むを得ず勃発したことを考えても、安全保障上避けては通れないものです。
原発を再稼働しなければ、当然化石燃料への依存は高まります。
化石燃料の多くは中東から輸入しており、ホルムズ海峡を通って海路を通って運搬されています。
つまり、ホルムズ海峡や南シナ海において、シーレーンを封鎖されたら、化石燃料を得られず、日本はエネルギーのない状態に陥ります。
ですから、化石燃料だけに頼らざるを得ない状況を作るのではなく、他のエネルギーにもリスク分散をしておく必要があるでしょう。
化石燃料一つに依存する状況を作るのは、安全保障上も非常に危険であると考えられます。
こうした論を展開すれば、原発の燃料であるウランも海上封鎖をされて、手に入れなければ、エネルギー依存を分散しても同じことではないかということを指摘されるかもしれません。
しかし、ウランを輸入する相手国は、そのほとんどがカナダ、オーストラリアなど西側諸国であり、その相手国の性格も、海路を通じて運搬するルートも、中東に頼る化石燃料とは全く異なります。
このことからも、安全保障上、リスク分散のために原発を再稼働することは利益をもたらします。
技術維持
次に考えられるのは原子力の技術力維持の観点です。
日本は現在核爆弾を持つことは、国際的にも許容されませんし、国内的にも許容されていません。
しかしながら、憲法上はなんら制約されているわけではなく、将来的にはその保有を考える必要がくるかもしれません。
そして、核爆弾は到底考えられないとしても、原子力潜水艦の保有は十分に考えられます。
そのときに原発を維持し、その過程で原子力技術を維持・発展させることは、非常に重要です。
必要になった時に、技術力はもうありませんでは、時すでに遅しなのです。
変わりゆく国際社会のなかで、そこに対応するために原子力技術を持ち続けるためにも、原発を稼働するというのは必要なのです。
このように、原発を語る上ではこれらの問題を総合的に勘案して、判断する必要があるのです。
ただ、ミサイルで打たれたら危なそうだから再稼働反対では、あまりに稚拙である断ずる他ありません。
まとめ
以上でつらつらと述べてきましたが、まとめると
- 原発が稼働してるか、してないかで原発を攻撃された場合のリスクは著しくは変わらない。
- 北朝鮮からすれば、原発は攻撃のターゲットとして、首都圏や在日米軍より重要ではない。
- 原発より首都圏を攻撃された方が、甚大な被害を受ける。
- 原発によってもたらされる、エネルギー安全保障上の利点や、技術的利点がある
- 総合的に考えれば、安全保障上、原発の再稼働が日本に多くの利益をもたらす
ということになります。
原発再稼働と国防を、ごちゃ混ぜにして考えるのは、筋が悪いのではないかというのはわかっていただけると思います。
そしてここまで、原発を維持すべきだという論調に見える論陣を張ってきましたが、これはあくまで安全保障上の問題に関してのみであり、安全保障を原発再稼働反対の理由付けに使うことの間違いを指摘したまでです。
原発が今の日本には必要ない、地震大国で今後福島と同じことが起こらないとは限らないという議論を否定しているわけではありません。
そういった議論は別の観点から、原発のそもそもの危険性や代替エネルギーの問題として議論されるべきです。
原発再稼働反対派の方々は、その主張の論理性を通して、相手に対して理解してもらうためにも、筋悪の安全保障を理由付けに使うような論戦を行うのではなく、真正面から原発が現在の日本にとって必要であるかの議論を行っていただきたく思います。